聖書 — 口語訳 (1955)
エステル記 4
概要
エステル記4章は、この書の転換点です。ユダヤ人を滅ぼす詔書のことが知れ渡ると、モルデカイは人々の前で嘆き悲しみ、王に取りなしをするようエステルに迫ります。召されずに王のもとへ行けば命を落とすおそれがあるため、エステルはためらいます。モルデカイは、黙っていても身は守られないこと、そして今の立場にはきっと意味があることを伝えます。エステルは勇気を選び、民に三日間の断食を求めたうえで、王のもとへ進み出ることを決めます。
この章の5つの区分
1モルデカイはすべてこのなされたことを知ったとき、その衣を裂き、荒布をまとい、灰をかぶり、町の中へ行って大声をあげ、激しく叫んで、
2王の門の入口まで行った。荒布をまとっては王の門の内にはいることができないからである。
3すべて王の命令と詔をうけ取った各州ではユダヤ人のうちに大いなる悲しみがあり、断食、嘆き、叫びが起り、また荒布をまとい、灰の上に座する者が多かった。
4エステルの侍女たちおよび侍従たちがきて、この事を告げたので、王妃は非常に悲しみ、モルデカイに着物を贈り、それを着せて、荒布を脱がせようとしたが受けなかった。
5そこでエステルは王の侍従のひとりで、王が自分にはべらせたハタクを召し、モルデカイのもとへ行って、それは何事であるか、何ゆえであるかを尋ねて来るようにと命じた。
6ハタクは出て、王の門の前にある町の広場にいるモルデカイのもとへ行くと、
7モルデカイは自分の身に起ったすべての事を彼に告げ、かつハマンがユダヤ人を滅ぼすことのために王の金庫に量り入れると約束した銀の正確な額を告げた。
8また彼らを滅ぼさせるために、スサで発布された詔書の写しを彼にわたし、それをエステルに見せ、かつ説きあかし、彼女が王のもとへ行ってその民のために王のあわれみを請い、王の前に願い求めるように彼女に言い伝えよと言った。
9ハタクが帰ってきてモルデカイの言葉をエステルに告げたので、
10エステルはハタクに命じ、モルデカイに言葉を伝えさせて言った、
11「王の侍臣および王の諸州の民は皆、男でも女でも、すべて召されないのに内庭にはいって王のもとへ行く者は、必ず殺されなければならないという一つの法律のあることを知っています。ただし王がその者に金の笏を伸べれば生きることができるのです。しかしわたしはこの三十日の間、王のもとへ行くべき召をこうむらないのです」。
12エステルの言葉をモルデカイに告げたので、
13モルデカイは命じてエステルに答えさせて言った、「あなたは王宮にいるゆえ、すべてのユダヤ人と異なり、難を免れるだろうと思ってはならない。
14あなたがもし、このような時に黙っているならば、ほかの所から、助けと救がユダヤ人のために起るでしょう。しかし、あなたとあなたの父の家とは滅びるでしょう。あなたがこの国に迎えられたのは、このような時のためでなかったとだれが知りましょう」。
15そこでエステルは命じてモルデカイに答えさせた、
16「あなたは行ってスサにいるすべてのユダヤ人を集め、わたしのために断食してください。三日のあいだ夜も昼も食い飲みしてはなりません。わたしとわたしの侍女たちも同様に断食しましょう。そしてわたしは法律にそむくことですが王のもとへ行きます。わたしがもし死なねばならないのなら、死にます」。
17モルデカイは行って、エステルがすべて自分に命じたとおりに行った。
鍵となる聖句
モルデカイはすべてこのなされたことを知ったとき、その衣を裂き、荒布をまとい、灰をかぶり、町の中へ行って大声をあげ、激しく叫んで、
モルデカイは人々の前で苦しみを表し、荒布をまとい灰をかぶります。これは悲しみと嘆願のしるしです。彼は痛みを隠さず、それを王の門のところまで持っていきます。
「王の侍臣および王の諸州の民は皆、男でも女でも、すべて召されないのに内庭にはいって王のもとへ行く者は、必ず殺されなければならないという一つの法律のあることを知っています。ただし王がその者に金の笏を伸べれば生きることができるのです。しかしわたしはこの三十日の間、王のもとへ行くべき召をこうむらないのです」。
エステルがためらう理由が語られます。宮廷の法律では、召されずに王に近づくことは禁じられています。この節は、彼女の勇気が危険を知らない人のものではないことを示しています。
あなたがもし、このような時に黙っているならば、ほかの所から、助けと救がユダヤ人のために起るでしょう。しかし、あなたとあなたの父の家とは滅びるでしょう。あなたがこの国に迎えられたのは、このような時のためでなかったとだれが知りましょう」。
モルデカイは、黙っていてもエステルは救われず、神は別の方法でも働かれると語ります。「このような時のためでなかったとだれが知りましょう」という問いは、彼女が宮廷にいるのは偶然ではないことを示唆します。本文は神の名を記しませんが、このあとの物語は神の御手を示しています。
「あなたは行ってスサにいるすべてのユダヤ人を集め、わたしのために断食してください。三日のあいだ夜も昼も食い飲みしてはなりません。わたしとわたしの侍女たちも同様に断食しましょう。そしてわたしは法律にそむくことですが王のもとへ行きます。わたしがもし死なねばならないのなら、死にます」。
エステルは状況をよく見きわめたうえで決断します。民に断食を求め、成功の保証がないまま危険を引き受けます。それは恐れがないことではなく、恐れの中でも前に進む信仰です。
この章に登場する人物
このテーマで祈る
説教が語っていること
エステル記4章についてよくある質問
エステル記4章14節の「このような時のため」とはどういう意味ですか
モルデカイは、エステルが王妃の地位にあるのは偶然ではなく、民が危機にある今この時のためかもしれないと示唆します。本文は慎重で、断定ではなく「だれが知りましょう」という問いかけです。自分が今の場所に置かれたのはどんな機会のためかを考え、それに応えることを受け入れるよう、私たちにも促しています。
なぜエステルは王のもとへ行くことをためらうのですか
宮廷の法律では、召されずに王のもとへ行く者は、王が金の笏を伸べない限り死刑と定められています。エステルはこの三十日間、召されていませんでした。命の危険があるため、11節で恐れを語り、16節で決断するのです。
なぜエステルは三日間の断食を求めるのですか
命をかける前に、エステルはスサにいるすべてのユダヤ人に、三日三晩、食べも飲みもせずに自分のために断食するよう求めます。彼女自身も侍女たちとともに断食します。断食は神への依存と嘆願の表れです。この書に祈りという言葉は出てきませんが、民の行いはその方向を向いています。
エステル記に神は登場しないのですか
エステル記には神の名が一度も出てきません。これは聖書の中で唯一のことです。それでも、民を救う数々の偶然や、14節で他の所から救いが起こると語るモルデカイの言葉から、多くの読者は、静かに働く神の摂理を読み取っています。
エステル記 4を引用している記事
口語訳(1955年)— パブリックドメイン。