聖書 — 口語訳 (1955)

マルコによる福音書 14

概要

マルコによる福音書14章は、十字架の前のイエスの最後の時間を伝えます。過越の二日前、宗教指導者たちは陰謀をめぐらし、一人の女がイエスに香油を注ぎ、ユダはイエスを引き渡すことに同意します。過越の食事で、イエスはパンと契約の杯を分け与えられます。ゲツセマネでイエスは祈り、弟子たちは眠り、イエスは捕らえられます。最高議会で有罪とされる間、ペテロは三度イエスを否定します。この章は、自らの意志で十字架へ進んで行かれるイエスを示しています。

この章の6つの区分

  1. 1-11節陰謀、ベタニヤの香油、ユダの裏切り
  2. 12-26節過越と主の晩餐:パンと契約の杯
  3. 27-31節弟子たちの逃亡とペテロの否認の予告
  4. 32-52節ゲツセマネと逮捕
  5. 53-65節最高議会の前のイエス
  6. 66-72節ペテロがイエスを否認する

1さて、過越と除酵との祭の二日前になった。祭司長たちや律法学者たちは、策略をもってイエスを捕えたうえ、なんとかして殺そうと計っていた。

2彼らは、「祭の間はいけない。民衆が騒ぎを起すかも知れない」と言っていた。

3イエスがベタニヤで、重い皮膚病の人シモンの家にいて、食卓についておられたとき、ひとりの女が、非常に高価で純粋なナルドの香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、それをこわし、香油をイエスの頭に注ぎかけた。

4すると、ある人々が憤って互に言った、「なんのために香油をこんなにむだにするのか。

5この香油を三百デナリ以上にでも売って、貧しい人たちに施すことができたのに」。そして女をきびしくとがめた。

6するとイエスは言われた、「するままにさせておきなさい。なぜ女を困らせるのか。わたしによい事をしてくれたのだ。

7貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるから、したいときにはいつでも、よい事をしてやれる。しかし、わたしはあなたがたといつも一緒にいるわけではない。

8この女はできる限りの事をしたのだ。すなわち、わたしのからだに油を注いで、あらかじめ葬りの用意をしてくれたのである。

9よく聞きなさい。全世界のどこででも、福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も記念として語られるであろう」。

10ときに、十二弟子のひとりイスカリオテのユダは、イエスを祭司長たちに引きわたそうとして、彼らの所へ行った。

11彼らはこれを聞いて喜び、金を与えることを約束した。そこでユダは、どうかしてイエスを引きわたそうと、機会をねらっていた。

12除酵祭の第一日、すなわち過越の小羊をほふる日に、弟子たちがイエスに尋ねた、「わたしたちは、過越の食事をなさる用意を、どこへ行ってしたらよいでしょうか」。

13そこで、イエスはふたりの弟子を使いに出して言われた、「市内に行くと、水がめを持っている男に出会うであろう。その人について行きなさい。

14そして、その人がはいって行く家の主人に言いなさい、『弟子たちと一緒に過越の食事をする座敷はどこか、と先生が言っておられます』。

15するとその主人は、席を整えて用意された二階の広間を見せてくれるから、そこにわたしたちのために用意をしなさい」。

16弟子たちは出かけて市内に行って見ると、イエスが言われたとおりであったので、過越の食事の用意をした。

17夕方になって、イエスは十二弟子と一緒にそこに行かれた。

18そして、一同が席について食事をしているとき言われた、「特にあなたがたに言っておくが、あなたがたの中のひとりで、わたしと一緒に食事をしている者が、わたしを裏切ろうとしている」。

19弟子たちは心配して、ひとりびとり「まさか、わたしではないでしょう」と言い出した。

20イエスは言われた、「十二人の中のひとりで、わたしと一緒に同じ鉢にパンをひたしている者が、それである。

21たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためによかったであろう」。

22一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「取れ、これはわたしのからだである」。

23また杯を取り、感謝して彼らに与えられると、一同はその杯から飲んだ。

24イエスはまた言われた、「これは、多くの人のために流すわたしの契約の血である。

25あなたがたによく言っておく。神の国で新しく飲むその日までは、わたしは決して二度と、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」。

26彼らは、さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った。

27そのとき、イエスは弟子たちに言われた、「あなたがたは皆、わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼を打つ。そして、羊は散らされるであろう』と書いてあるからである。

28しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより先にガリラヤへ行くであろう」。

29するとペテロはイエスに言った、「たとい、みんなの者がつまずいても、わたしはつまずきません」。

30イエスは言われた、「あなたによく言っておく。きょう、今夜、にわとりが二度鳴く前に、そう言うあなたが、三度わたしを知らないと言うだろう」。

31ペテロは力をこめて言った、「たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを知らないなどとは、決して申しません」。みんなの者もまた、同じようなことを言った。

32さて、一同はゲツセマネという所にきた。そしてイエスは弟子たちに言われた、「わたしが祈っている間、ここにすわっていなさい」。

33そしてペテロ、ヤコブ、ヨハネを一緒に連れて行かれたが、恐れおののき、また悩みはじめて、彼らに言われた、

34「わたしは悲しみのあまり死ぬほどである。ここに待っていて、目をさましていなさい」。

35そして少し進んで行き、地にひれ伏し、もしできることなら、この時を過ぎ去らせてくださるようにと祈りつづけ、そして言われた、

36「アバ、父よ、あなたには、できないことはありません。どうか、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの思いではなく、みこころのままになさってください」。

37それから、きてごらんになると、弟子たちが眠っていたので、ペテロに言われた、「シモンよ、眠っているのか、ひと時も目をさましていることができなかったのか。

38誘惑に陥らないように、目をさまして祈っていなさい。心は熱しているが、肉体が弱いのである」。

39また離れて行って同じ言葉で祈られた。

40またきてごらんになると、彼らはまだ眠っていた。その目が重くなっていたのである。そして、彼らはどうお答えしてよいか、わからなかった。

41三度目にきて言われた、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。もうそれでよかろう。時がきた。見よ、人の子は罪人らの手に渡されるのだ。

42立て、さあ行こう。見よ。わたしを裏切る者が近づいてきた」。

43そしてすぐ、イエスがまだ話しておられるうちに、十二弟子のひとりのユダが進みよってきた。また祭司長、律法学者、長老たちから送られた群衆も、剣と棒とを持って彼についてきた。

44イエスを裏切る者は、あらかじめ彼らに合図をしておいた、「わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえて、まちがいなく引っぱって行け」。

45彼は来るとすぐ、イエスに近寄り、「先生」と言って接吻した。

46人々はイエスに手をかけてつかまえた。

47すると、イエスのそばに立っていた者のひとりが、剣を抜いて大祭司の僕に切りかかり、その片耳を切り落した。

48イエスは彼らにむかって言われた、「あなたがたは強盗にむかうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたのか。

49わたしは毎日あなたがたと一緒に宮にいて教えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。しかし聖書の言葉は成就されねばならない」。

50弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。

51ときに、ある若者が身に亜麻布をまとって、イエスのあとについて行ったが、人々が彼をつかまえようとしたので、

52その亜麻布を捨てて、裸で逃げて行った。

53それから、イエスを大祭司のところに連れて行くと、祭司長、長老、律法学者たちがみな集まってきた。

54ペテロは遠くからイエスについて行って、大祭司の中庭まではいり込み、その下役どもにまじってすわり、火にあたっていた。

55さて、祭司長たちと全議会とは、イエスを死刑にするために、イエスに不利な証拠を見つけようとしたが、得られなかった。

56多くの者がイエスに対して偽証を立てたが、その証言が合わなかったからである。

57ついに、ある人々が立ちあがり、イエスに対して偽証を立てて言った、

58「わたしたちはこの人が『わたしは手で造ったこの神殿を打ちこわし、三日の後に手で造られない別の神殿を建てるのだ』と言うのを聞きました」。

59しかし、このような証言も互に合わなかった。

60そこで大祭司が立ちあがって、まん中に進み、イエスに聞きただして言った、「何も答えないのか。これらの人々があなたに対して不利な証言を申し立てているが、どうなのか」。

61しかし、イエスは黙っていて、何もお答えにならなかった。大祭司は再び聞きただして言った、「あなたは、ほむべき者の子、キリストであるか」。

62イエスは言われた、「わたしがそれである。あなたがたは人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」。

63すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、「どうして、これ以上、証人の必要があろう。

64あなたがたはこのけがし言を聞いた。あなたがたの意見はどうか」。すると、彼らは皆、イエスを死に当るものと断定した。

65そして、ある者はイエスにつばきをかけ、目隠しをし、こぶしでたたいて、「言いあててみよ」と言いはじめた。また下役どもはイエスを引きとって、手のひらでたたいた。

66ペテロは下で中庭にいたが、大祭司の女中のひとりがきて、

67ペテロが火にあたっているのを見ると、彼を見つめて、「あなたもあのナザレ人イエスと一緒だった」と言った。

68するとペテロはそれを打ち消して、「わたしは知らない。あなたの言うことがなんの事か、わからない」と言って、庭口の方に出て行った。

69ところが、先の女中が彼を見て、そばに立っていた人々に、またもや「この人はあの仲間のひとりです」と言いだした。

70ペテロは再びそれを打ち消した。しばらくして、そばに立っていた人たちがまたペテロに言った、「確かにあなたは彼らの仲間だ。あなたもガリラヤ人だから」。

71しかし、彼は、「あなたがたの話しているその人のことは何も知らない」と言い張って、激しく誓いはじめた。

72するとすぐ、にわとりが二度目に鳴いた。ペテロは、「にわとりが二度鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、そして思いかえして泣きつづけた。

鍵となる聖句

8節
この女はできる限りの事をしたのだ。すなわち、わたしのからだに油を注いで、あらかじめ葬りの用意をしてくれたのである。

イエスは香油を注いだ女をかばわれます。彼女はできる限りのことをして、あらかじめ葬りの用意をしてくれたのです。無駄だと言う人々のかたわらで、その高価な行いは、愛の行為として受け入れられました。

24節
イエスはまた言われた、「これは、多くの人のために流すわたしの契約の血である。

イエスは、杯をご自分の血、多くの人のために流される契約の血として示されます。クリスチャンはこの言葉を主の晩餐で唱えますが、その理解は伝統によってさまざまです。

36節
「アバ、父よ、あなたには、できないことはありません。どうか、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの思いではなく、みこころのままになさってください」。

ゲツセマネでイエスは祈られます。「アバ、父よ、あなたには、できないことはありません」。杯を取りのけてくださいと願い、そのうえで父のみこころにゆだねられます。聖書は、イエスの現実の苦悩と従順を示しています。

62節
イエスは言われた、「わたしがそれである。あなたがたは人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」。

大祭司に問われて、イエスは、自分がキリストであると答え、人の子が力ある者の右に座すのを見るであろうと告げられます。この宣言が、イエスが有罪とされる理由となります。

72節
するとすぐ、にわとりが二度目に鳴いた。ペテロは、「にわとりが二度鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、そして思いかえして泣きつづけた。

ペテロはイエスの言葉を思い出し、泣き続けます。章は、誠実な弟子の失敗で終わり、ほかの福音書で語られる回復の物語への備えとなります。

この章に登場する人物

説教が語っていること

マルコによる福音書14章についてよくある質問

マルコ14章で女が香油を注いだ行いは何を意味しますか

一人の女が、非常に高価な香油の入った石膏のつぼを割り、イエスの頭に注ぎます。無駄づかいだと言う人もいましたが、イエスは、彼女は良いことをした、あらかじめわたしのからだに油を注いでくれたのだと答えられます。彼女の行いは、打算のない愛を示し、イエスの死を予告しています。

ゲツセマネでは何が起こりますか

過越の食事のあと、イエスは弟子たちを園に連れて行かれます。深い悲しみに包まれ、三度祈られます。杯を取りのけてくださいと願いながらも、父のみこころを受け入れられます。弟子たちは眠ってしまいます。間もなく、ユダが群衆を連れてイエスを捕らえに来ます。この箇所は、イエスの人としての姿と、十字架へ行く決意の両方を示しています。

なぜペテロはイエスを否認したのですか

ペテロは、たとえ死ななければならないとしても、イエスを捨てないと約束していました。しかし、大祭司の中庭で恐れに襲われ、三度イエスを知らないと否定します。にわとりが鳴き、ペテロはイエスの言葉を思い出して泣きます。この物語は、誠実な弟子でも倒れることがあり、恵みを必要とすることを示しています。

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