聖書 — 口語訳 (1955)
ルカによる福音書 23
概要
イエスはピラトのもとへ連れて行かれ、ピラトは何の罪も認めず、次にヘロデのところへ送ります。群衆に押され、ピラトはバラバをゆるし、イエスを引き渡します。十字架の上でイエスは、ご自分を打つ者たちのために祈り、悔い改めた犯罪人にパラダイスを約束し、そして霊を父にゆだねられます。聖所の幕が裂け、百卒長はイエスが正しい人であったと認め、アリマタヤのヨセフが遺体を新しい墓に納めます。ルカはイエスの無実を強調しています。
この章の6つの区分
1群衆はみな立ちあがって、イエスをピラトのところへ連れて行った。
2そして訴え出て言った、「わたしたちは、この人が国民を惑わし、貢をカイザルに納めることを禁じ、また自分こそ王なるキリストだと、となえているところを目撃しました」。
3ピラトはイエスに尋ねた、「あなたがユダヤ人の王であるか」。イエスは「そのとおりである」とお答えになった。
4そこでピラトは祭司長たちと群衆とにむかって言った、「わたしはこの人になんの罪もみとめない」。
5ところが彼らは、ますます言いつのってやまなかった、「彼は、ガリラヤからはじめてこの所まで、ユダヤ全国にわたって教え、民衆を煽動しているのです」。
6ピラトはこれを聞いて、この人はガリラヤ人かと尋ね、
7そしてヘロデの支配下のものであることを確かめたので、ちょうどこのころ、ヘロデがエルサレムにいたのをさいわい、そちらへイエスを送りとどけた。
8ヘロデはイエスを見て非常に喜んだ。それは、かねてイエスのことを聞いていたので、会って見たいと長いあいだ思っていたし、またイエスが何か奇跡を行うのを見たいと望んでいたからである。
9それで、いろいろと質問を試みたが、イエスは何もお答えにならなかった。
10祭司長たちと律法学者たちとは立って、激しい語調でイエスを訴えた。
11またヘロデはその兵卒どもと一緒になって、イエスを侮辱したり嘲弄したりしたあげく、はなやかな着物を着せてピラトへ送りかえした。
12ヘロデとピラトとは以前は互に敵視していたが、この日に親しい仲になった。
13ピラトは、祭司長たちと役人たちと民衆とを、呼び集めて言った、
14「おまえたちは、この人を民衆を惑わすものとしてわたしのところに連れてきたので、おまえたちの面前でしらべたが、訴え出ているような罪は、この人に少しもみとめられなかった。
15ヘロデもまたみとめなかった。現に彼はイエスをわれわれに送りかえしてきた。この人はなんら死に当るようなことはしていないのである。
16だから、彼をむち打ってから、ゆるしてやることにしよう」。
17〔祭ごとにピラトがひとりの囚人をゆるしてやることになっていた。〕
18ところが、彼らはいっせいに叫んで言った、「その人を殺せ。バラバをゆるしてくれ」。
19このバラバは、都で起った暴動と殺人とのかどで、獄に投ぜられていた者である。
20ピラトはイエスをゆるしてやりたいと思って、もう一度かれらに呼びかけた。
21しかし彼らは、わめきたてて「十字架につけよ、彼を十字架につけよ」と言いつづけた。
22ピラトは三度目に彼らにむかって言った、「では、この人は、いったい、どんな悪事をしたのか。彼には死に当る罪は全くみとめられなかった。だから、むち打ってから彼をゆるしてやることにしよう」。
23ところが、彼らは大声をあげて詰め寄り、イエスを十字架につけるように要求した。そして、その声が勝った。
24ピラトはついに彼らの願いどおりにすることに決定した。
25そして、暴動と殺人とのかどで獄に投ぜられた者の方を、彼らの要求に応じてゆるしてやり、イエスの方は彼らに引き渡して、その意のままにまかせた。
26彼らがイエスをひいてゆく途中、シモンというクレネ人が郊外から出てきたのを捕えて十字架を負わせ、それをになってイエスのあとから行かせた。
27大ぜいの民衆と、悲しみ嘆いてやまない女たちの群れとが、イエスに従って行った。
28イエスは女たちの方に振りむいて言われた、「エルサレムの娘たちよ、わたしのために泣くな。むしろ、あなたがた自身のため、また自分の子供たちのために泣くがよい。
29『不妊の女と子を産まなかった胎と、ふくませなかった乳房とは、さいわいだ』と言う日が、いまに来る。
30そのとき、人々は山にむかって、われわれの上に倒れかかれと言い、また丘にむかって、われわれにおおいかぶされと言い出すであろう。
31もし、生木でさえもそうされるなら、枯木はどうされることであろう」。
32さて、イエスと共に刑を受けるために、ほかにふたりの犯罪人も引かれていった。
33されこうべと呼ばれている所に着くと、人々はそこでイエスを十字架につけ、犯罪人たちも、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけた。
34そのとき、イエスは言われた、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」。人々はイエスの着物をくじ引きで分け合った。
35民衆は立って見ていた。役人たちもあざ笑って言った、「彼は他人を救った。もし彼が神のキリスト、選ばれた者であるなら、自分自身を救うがよい」。
36兵卒どももイエスをののしり、近寄ってきて酢いぶどう酒をさし出して言った、
37「あなたがユダヤ人の王なら、自分を救いなさい」。
38イエスの上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札がかけてあった。
39十字架にかけられた犯罪人のひとりが、「あなたはキリストではないか。それなら、自分を救い、またわれわれも救ってみよ」と、イエスに悪口を言いつづけた。
40もうひとりは、それをたしなめて言った、「おまえは同じ刑を受けていながら、神を恐れないのか。
41お互は自分のやった事のむくいを受けているのだから、こうなったのは当然だ。しかし、このかたは何も悪いことをしたのではない」。
42そして言った、「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、わたしを思い出してください」。
43イエスは言われた、「よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。
44時はもう昼の十二時ごろであったが、太陽は光を失い、全地は暗くなって、三時に及んだ。
45そして聖所の幕がまん中から裂けた。
46そのとき、イエスは声高く叫んで言われた、「父よ、わたしの霊をみ手にゆだねます」。こう言ってついに息を引きとられた。
47百卒長はこの有様を見て、神をあがめ、「ほんとうに、この人は正しい人であった」と言った。
48この光景を見に集まってきた群衆も、これらの出来事を見て、みな胸を打ちながら帰って行った。
49すべてイエスを知っていた者や、ガリラヤから従ってきた女たちも、遠い所に立って、これらのことを見ていた。
50ここに、ヨセフという議員がいたが、善良で正しい人であった。
51この人はユダヤの町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいた。彼は議会の議決や行動には賛成していなかった。
52この人がピラトのところへ行って、イエスのからだの引取り方を願い出て、
53それを取りおろして亜麻布に包み、まだだれも葬ったことのない、岩を掘って造った墓に納めた。
54この日は準備の日であって、安息日が始まりかけていた。
55イエスと一緒にガリラヤからきた女たちは、あとについてきて、その墓を見、またイエスのからだが納められる様子を見とどけた。
56そして帰って、香料と香油とを用意した。それからおきてに従って安息日を休んだ。
鍵となる聖句
そこでピラトは祭司長たちと群衆とにむかって言った、「わたしはこの人になんの罪もみとめない」。
ピラトは「わたしはこの人になんの罪もみとめない」と言います。ルカはこれを何度も繰り返し、イエスが罪人としてではなく、不正の犠牲者として、無実のまま死なれることを示しています。
ヘロデとピラトとは以前は互に敵視していたが、この日に親しい仲になった。
それまで敵視し合っていたヘロデとピラトが、この日に親しい仲になります。ある説教は、権力者たちがイエスの運命を決めるとき、そこに不正への共謀を見ます。
そのとき、イエスは言われた、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」。人々はイエスの着物をくじ引きで分け合った。
十字架の上でイエスは、ご自分を死なせる人々のために、父にゆるしを求められます。この行いは、ご自分を拒む者にゆるしを差し出すという、イエスの使命の中心を表しています。
そして言った、「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、わたしを思い出してください」。 イエスは言われた、「よく言っておくが、あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。
共に十字架につけられた犯罪人のひとりが、イエスに「わたしを思い出してください」と願います。答えはすぐに返ります。「あなたはきょう、わたしと一緒にパラダイスにいるであろう」。救いは、イエスに向かう者に差し出され、何かをつけ加える必要はありません。
そのとき、イエスは声高く叫んで言われた、「父よ、わたしの霊をみ手にゆだねます」。こう言ってついに息を引きとられた。
イエスは霊を父にゆだねて息を引き取られます。その死は、押しつけられた敗北ではなく、神のみ手への自ら進んでのゆだねです。
聖書クイズに挑戦
この章に登場する人物
説教が語っていること
ルカによる福音書23章についてよくある質問
ルカによる福音書23章の中心的なメッセージは何ですか
ルカは、イエスが無実であるのに、群衆の圧力とピラトの臆病によって裁かれ、十字架につけられることを示します。十字架の上でイエスはゆるし、悔い改めた犯罪人を迎え入れ、霊を父にゆだねられます。この章は、読む人それぞれに、十字架の前でどう反応するかを問いかけています。
ルカ23章43節のイエスの約束は何を意味しますか
二人の犯罪人のうちのひとりは、自分の罪を認め、イエスは何も悪いことをしていないと言い、思い出してほしいと願います。イエスは、きょうのうちに共にパラダイスにいると答えられます。多くのクリスチャンは、この場面に、救いは行いや儀式によらず、イエスへの信頼による恵みから来ることを見ています。
ピラトは無実と知りながら、なぜイエスを引き渡したのですか
ルカは、ピラトが三度、イエスに何の罪も認めないと言いながら、十字架を求める群衆の叫びに屈したと語ります。おそらく、自分の立場を損なう暴動を恐れたのでしょう。本文は、権力者と群衆の責任を示しつつ、イエスが偶然の犠牲者ではないこともうかがわせています。
なぜイエスの死のとき、聖所の幕が裂けたのですか
ルカはこの出来事を、地が暗くなる中でのイエスの死の時に置いています。多くのクリスチャンはそこに、十字架によって、神への道が神殿の仲介なしに開かれたしるしを見ます。ルカは詳しい説明を与えておらず、その意味の範囲については注解者の間で議論があります。
ルカによる福音書 23を引用している記事
口語訳(1955年)— パブリックドメイン。