聖書 — 口語訳 (1955)
マルコによる福音書 5
概要
マルコによる福音書5章には、だれもが絶望的だと思っていた人々にイエスが出会う三つの物語が集められています。ゲラサで、イエスは墓場に住んでいた苦しむ人を解放し、主が何をしてくださったかを語り伝えるよう遣わします。次に、会堂司ヤイロが死にかけた娘のためにイエスに願います。途中、十二年間病んでいた女が信仰をもってイエスの着物にさわり、癒されます。少女の死が告げられたとき、イエスは恐れることはない、ただ信じなさいと言い、その子を起こされます。
この章の4つの区分
1こうして彼らは海の向こう岸、ゲラサ人の地に着いた。
2それから、イエスが舟からあがられるとすぐに、けがれた霊につかれた人が墓場から出てきて、イエスに出会った。
3この人は墓場をすみかとしており、もはやだれも、鎖でさえも彼をつなぎとめて置けなかった。
4彼はたびたび足かせや鎖でつながれたが、鎖を引きちぎり、足かせを砕くので、だれも彼を押えつけることができなかったからである。
5そして、夜昼たえまなく墓場や山で叫びつづけて、石で自分のからだを傷つけていた。
6ところが、この人がイエスを遠くから見て、走り寄って拝し、
7大声で叫んで言った、「いと高き神の子イエスよ、あなたはわたしとなんの係わりがあるのです。神に誓ってお願いします。どうぞ、わたしを苦しめないでください」。
8それは、イエスが、「けがれた霊よ、この人から出て行け」と言われたからである。
9また彼に、「なんという名前か」と尋ねられると、「レギオンと言います。大ぜいなのですから」と答えた。
10そして、自分たちをこの土地から追い出さないようにと、しきりに願いつづけた。
11さて、そこの山の中腹に、豚の大群が飼ってあった。
12霊はイエスに願って言った、「わたしどもを、豚にはいらせてください。その中へ送ってください」。
13イエスがお許しになったので、けがれた霊どもは出て行って、豚の中へはいり込んだ。すると、その群れは二千匹ばかりであったが、がけから海へなだれを打って駆け下り、海の中でおぼれ死んでしまった。
14豚を飼う者たちが逃げ出して、町や村にふれまわったので、人々は何事が起ったのかと見にきた。
15そして、イエスのところにきて、悪霊につかれた人が着物を着て、正気になってすわっており、それがレギオンを宿していた者であるのを見て、恐れた。
16また、それを見た人たちは、悪霊につかれた人の身に起った事と豚のこととを、彼らに話して聞かせた。
17そこで、人々はイエスに、この地方から出て行っていただきたいと、頼みはじめた。
18イエスが舟に乗ろうとされると、悪霊につかれていた人がお供をしたいと願い出た。
19しかし、イエスはお許しにならないで、彼に言われた、「あなたの家族のもとに帰って、主がどんなに大きなことをしてくださったか、またどんなにあわれんでくださったか、それを知らせなさい」。
20そこで、彼は立ち去り、そして自分にイエスがしてくださったことを、ことごとくデカポリスの地方に言いひろめ出したので、人々はみな驚き怪しんだ。
21イエスがまた舟で向こう岸へ渡られると、大ぜいの群衆がみもとに集まってきた。イエスは海べにおられた。
22そこへ、会堂司のひとりであるヤイロという者がきて、イエスを見かけるとその足もとにひれ伏し、
23しきりに願って言った、「わたしの幼い娘が死にかかっています。どうぞ、その子がなおって助かりますように、おいでになって、手をおいてやってください」。
24そこで、イエスは彼と一緒に出かけられた。大ぜいの群衆もイエスに押し迫りながら、ついて行った。
25さてここに、十二年間も長血をわずらっている女がいた。
26多くの医者にかかって、さんざん苦しめられ、その持ち物をみな費してしまったが、なんのかいもないばかりか、かえってますます悪くなる一方であった。
27この女がイエスのことを聞いて、群衆の中にまぎれ込み、うしろから、み衣にさわった。
28それは、せめて、み衣にでもさわれば、なおしていただけるだろうと、思っていたからである。
29すると、血の元がすぐにかわき、女は病気がなおったことを、その身に感じた。
30イエスはすぐ、自分の内から力が出て行ったことに気づかれて、群衆の中で振り向き、「わたしの着物にさわったのはだれか」と言われた。
31そこで弟子たちが言った、「ごらんのとおり、群衆があなたに押し迫っていますのに、だれがさわったかと、おっしゃるのですか」。
32しかし、イエスはさわった者を見つけようとして、見まわしておられた。
33その女は自分の身に起ったことを知って、恐れおののきながら進み出て、みまえにひれ伏して、すべてありのままを申し上げた。
34イエスはその女に言われた、「娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して行きなさい。すっかりなおって、達者でいなさい」。
35イエスが、まだ話しておられるうちに、会堂司の家から人々がきて言った、「あなたの娘はなくなりました。このうえ、先生を煩わすには及びますまい」。
36イエスはその話している言葉を聞き流して、会堂司に言われた、「恐れることはない。ただ信じなさい」。
37そしてペテロ、ヤコブ、ヤコブの兄弟ヨハネのほかは、ついて来ることを、だれにもお許しにならなかった。
38彼らが会堂司の家に着くと、イエスは人々が大声で泣いたり、叫んだりして、騒いでいるのをごらんになり、
39内にはいって、彼らに言われた、「なぜ泣き騒いでいるのか。子供は死んだのではない。眠っているだけである」。
40人々はイエスをあざ笑った。しかし、イエスはみんなの者を外に出し、子供の父母と供の者たちだけを連れて、子供のいる所にはいって行かれた。
41そして子供の手を取って、「タリタ、クミ」と言われた。それは、「少女よ、さあ、起きなさい」という意味である。
42すると、少女はすぐに起き上がって、歩き出した。十二歳にもなっていたからである。彼らはたちまち非常な驚きに打たれた。
43イエスは、だれにもこの事を知らすなと、きびしく彼らに命じ、また、少女に食物を与えるようにと言われた。
鍵となる聖句
しかし、イエスはお許しにならないで、彼に言われた、「あなたの家族のもとに帰って、主がどんなに大きなことをしてくださったか、またどんなにあわれんでくださったか、それを知らせなさい」。
解放された人はイエスについて行くことを願いますが、イエスは彼を家族のもとに遣わし、主が何をしてくださったか、どんなにあわれんでくださったかを語らせます。彼の証しがそのまま使命となり、彼はそれをデカポリス中に宣べ伝えます。
それは、せめて、み衣にでもさわれば、なおしていただけるだろうと、思っていたからである。
女は声に出して願うことはせず、イエスの着物にさわるだけでいやされると心の中で言います。十二年間うまくいかなかったあとの彼女の信仰は、控えめでありながら強い決意のある行動の形をとります。
イエスはその女に言われた、「娘よ、あなたの信仰があなたを救ったのです。安心して行きなさい。すっかりなおって、達者でいなさい」。
イエスは彼女に娘として語りかけます。ただ癒すだけでなく、彼女を人目につかない場所から連れ出し、平安とともに居場所を回復されます。そして彼女の癒しを信仰に結びつけられます。
イエスはその話している言葉を聞き流して、会堂司に言われた、「恐れることはない。ただ信じなさい」。
すべてが絶望的に見えるそのとき、イエスはヤイロに「恐れることはない。ただ信じなさい」と言われます。悪い知らせが届いたあとも、信頼し続けるようにという呼びかけです。
そして子供の手を取って、「タリタ、クミ」と言われた。それは、「少女よ、さあ、起きなさい」という意味である。
イエスは少女の手を取り、日常の言葉であるアラム語で語りかけます。マルコはその場面の印象深い思い出として、「タリタ、クミ」という言葉をそのまま書き留めています。
この章に登場する人物
このテーマで祈る
説教が語っていること
マルコによる福音書5章についてよくある質問
マルコによる福音書5章の「レギオン」という名前は何を意味しますか
イエスが悪霊につかれた人に名を尋ねると、彼は大ぜいなので「レギオン」と答えます。この言葉は、多くの兵士からなるローマ軍の部隊を思わせます。この人を苦しめていた悪は数多くありましたが、イエスは一言でそれに対する権威をお持ちだということを示しています。
マルコによる福音書5章は信仰について何を伝えていますか
三つの物語は、置かれた状況にもかかわらずイエスに近づく人々を描いています。駆け寄る墓場の人、願い求める父、さわる女です。イエスは一人ひとりに応えられます。ヤイロに恐れることはない、ただ信じなさいと言われた言葉が、この章を要約しています。
なぜイエスはヤイロの娘が眠っていると言われたのですか
39節で、イエスは子供は死んだのではなく眠っているだけだと言い、群衆はあざ笑います。キリスト者はこの言葉を二通りに理解します。イエスの力の前では死は最終的なものではないという言い方だと見る人もいれば、単なる比喩的な表現だと見る人もいます。いずれにしても、イエスは少女を起こし、何か食べ物を与えるよう命じられます。
マルコによる福音書 5を引用している記事
口語訳(1955年)— パブリックドメイン。